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第335話 邂逅 15-5
「仕方ないですね。可愛い佐樹さんに免じて、今日のところは大人しく帰ります」
そう言って身を屈めた藤堂の唇が再び重なり、心臓がまた大きく脈打った。そしてわずかに身を引いて離れようとする彼をじっと視線で追いながら、僕は高まる鼓動にうろたえた。
「佐樹さん?」
目の前の藤堂がなぜか目を見開く。
「あ……」
瞬きをしない藤堂の視線の先を見つめ、自分自身の行動に戸惑った。離れようとした藤堂の腕を、僕は無意識に強く掴んでいた。
「あ、甘えてもいいんだろ?」
とっさに口にした言葉で自分の顔が熱くなる。駄目だと頭ではわかっているのに、あふれだした気持ちが収まらない。
冷静で大人ぶった自分は藤堂の前に立つと長く保てない、今更だ。道の真ん中で彼に抱きついた時点で、そんな綺麗事は通用しない。
「いいですよ、いくらでも甘えてください」
頬を緩ませ笑った藤堂は、掴んだ僕の手を解いてそれを握りしめた。
「家まで送ります」
「え、そっちは」
「大丈夫ですよ」
来た道とは違う方向へ歩き出した背中に首を傾げると、ふっと笑みを浮かべた藤堂が振り返る。
「裏道、人通りが少なくて少し物騒ですけど、表通りで人目につくよりいいでしょ」
「……そういえば、前はこの辺でよく遊んでたんだよな」
慣れた様子で建物の隙間を抜けて、薄暗い道をなんの躊躇いもなく歩く。そんな藤堂の姿にふと昔の背中がちらついた。
「随分前の話ですよ。それよりなにか買って帰ります?」
「……ん、少し腹が減った」
「そう、それはよかった」
なんとなく、まだいまと昔の記憶の整理はついていない気はしたが、それでも彼の背中はいまも昔も変わらないのはよくわかった。
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