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第336話 邂逅 16-1
藤堂に手を引かれ歩く道は確かに人通りが少なく、すれ違うこともほとんどなかった。しかし時折通り過ぎる人に、慌てて手を離しそうになり、そのたびに藤堂の手でそれを握りしめられ阻まれる。
手を引かれ駅前の表通りを歩いていたことを考えれば今更なのだが、あの時はかなり自分も必死だった。冷静になると羞恥が急に湧き起こる。いままでの経験を思い起こしても、誰かとこうして歩いたことがない。
「いままではあんまりベタベタされるのは、好きじゃなかったんだけどな。と言うか、逆にいまベタベタしてるのって僕だよな」
「ん? どうしたんですか」
ブツブツと呟く僕の声に藤堂は首を傾げて振り返る。そんな彼の顔を見つめ、僕は思わずため息をついた。
「なんでもない」
ゆるりと首を振った僕は繋がれた手を強く握り返す。落ち着いて周りを見れば、過ぎ行く人たちはさして僕らを気にする素振りはない。
「こういう道は、慌てるほうが逆に目立つんですよ」
ふいに笑みを浮かべた藤堂は繋いだ手を引き寄せる。わずかに開いた隙間を奪われ、お互いの肩がぶつかった。
「……」
しかしその気恥ずかしさよりも、ほかの誰かとこうして歩いたのかと思ってしまう自分に胸の内がものすごく複雑だ。
「なんでそんなに可愛い顔をしてるの、佐樹さん」
「は? なに言って」
無意識に顔をしかめていたことに気づき、慌てて藤堂を見上げれば至極楽しげな表情を浮かべた顔が目の前にあった。
驚いて肩を跳ね上げると微かな笑い声が聞こえた。
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