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第337話 邂逅 16-2

「馬鹿にしてるのか」 「どうして? いま、俺は可愛いって言ったのに」  ふて腐れた僕の言葉に不服そうな顔をして、藤堂は口を曲げる。拗ねた子供みたいなその仕草に、なぜか急にほっとした。 「僕は可愛くなんかないぞ」 「俺にとっては可愛いんです」 「……目が悪過ぎだ」  満面の笑みを浮かべる藤堂に呆れた視線を向けながらも、つい緩みがちになってしまう頬を誤魔化すように僕は口を引き結んだ。  やはりいまの藤堂が一番好きかもしれない。笑ったり怒ったり拗ねたり、そんな姿にたまらなく胸がぎゅっとなる。そしてそれを自分にだけ見せてくれているという、至福。 「佐樹さん?」 「これ、返す」  ふいに黙った僕に怪訝そうな顔をする藤堂。そんな彼に僕は再び頬が緩まぬよう気をつけながら、空いた片方の手を差し出した。その手にあるのは先ほど勝手に取り、ポケットにしまい込んでいた藤堂の眼鏡だ。 「ああ」 「なくても不自由ないのか?」  いまそれを思い出したかのように、藤堂は小さく呟き眼鏡を受け取る。以前も大して度数はないと言ってはいたが、夜道を歩き難くはないのだろうか。 「通り過ぎる人の顔ははっきり見えないですけど。歩くのには支障はないですよ。佐樹さんはちゃんと見えてますから、それで十分です」 「……またそうやってすぐ恥ずかしいこと言う」  こちらがうろたえてしまうことをいとも容易く言ってしまう藤堂に、相変わらず弱い。顔が熱くてきっといま明るい場所へ出たら、羞恥で逃げたくなる。

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