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第338話 邂逅 16-3
「かけないのか」
「ないほうが少しは誤魔化し利くでしょう?」
受け取った眼鏡を藤堂はそのまま制服のポケットにしまった。訝しげに首を傾げると肩をすくめて笑みを返される。
「あ、そうか」
確かに先ほど僕がいじったせいで、髪型も少し変わってしまっている。さらに眼鏡もなくなると、パッと見ただけでは雰囲気が違ってわからないかもしれない。
「ついでにこっちも脱いでおきますか」
「え?」
徐々に表通りの明るさが近づいてくるそれを見越したのか、立ち止まった藤堂の手がふいに離れ、おもむろに彼はブレザーを脱いだ。
「うちの制服、目立ちますからね。保険です」
「寒くないか」
藤堂の言うように白のブレザーは普段でもよく目につく、夜道ならば尚更だ。しかし暖かくなって来てはいるが、夜はきっとワイシャツだけでは肌寒いに違いない。
「大丈夫ですよ」
「けど」
「平気です。佐樹さんの家もここから近いですし」
「え? もう? いま、何時だ」
驚きをあらわにぽかんと口を開けてしまった僕に、藤堂は小さく笑いながら微笑んだ。のんびりとした歩調で歩いていた割に、一駅先がこんなに早いとは思わなかった。それとも早いと感じているだけなのだろうか。
「裏から来ると三十分くらいですかね」
「そう、か」
「どうしたんですか?」
歯切れの悪い僕に藤堂は不思議そうな顔をしながら目を瞬かせる。
「もう少し」
「なに?」
「もう少しだけ傍にいてくれないか」
結局、離れられないのは自分のほうだ。ぎゅっと手を握りしめ、藤堂の肩に額を擦り付けた。
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