339 / 1096
第339話 邂逅 16-4
「駄目だってわかっているのに、まだお前と一緒にいたい」
もどかしい――こんなに愛おしいのに、僕らのあいだには制約が多過ぎて息が詰まりそうになる。阻まれるほどに手を伸ばしたくなってしまう。
恋に恋している。そんな状況なのかもしれないが、そうだとしても僕の中に生まれる初めての感情に翻弄される。
「佐樹さん、ご飯はなにが食べたい? 明日の分も作り置きしましょうか」
「お前と一緒なら、なんでもいい」
ゆっくりと歩き出した藤堂の背中が、ほんの少しぼやけた。極自然に寄り添ってくれるその優しさが、たまらなく胸に染みてくる。僕は自分がこんなにも我がままで、我慢が利かない人間なのだと初めて知った。いや、相手が藤堂だからなのかもしれないが、いままでして来た恋愛はなんだったのかと、自身を疑う。
適当な気持ちで傍にいたつもりはない。けれどこんなに必死にはならなかった。
「運命ってあると思うか?」
「……それって、俺と佐樹さんのこと?」
振り返り、ふっと笑った藤堂の表情に胸が締めつけられる。いつもの自分ならそんなものは信用しない。でもいまはそれもあるんじゃないかと思った。
「明日きんぴらが食べたい」
「ん、また渋いとこに来ますね。じゃあそれの材料も一緒に買って帰りましょう。どうせ佐樹さんちの冷蔵庫は空っぽでしょ」
「余計なお世話だ」
目の前に現れた煌々とした光を放つ二十四時間のスーパーに向かい、二人でのんびりと歩く。自然と繋いだ手は離れてしまったが、不思議と物足りなさはなかった。
ともだちにシェアしよう!