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第342話 邂逅 17-3

 主に使う寝室と広めのリビングダイニングのほかには、客間がひと部屋。どの部屋もそこそこ広さがあるので、面倒くさがりの自分はものがあれば間違いなく散らかる。しかしなければないでなんの不自由なく過ごせるのだ。 「……あ」  なんとなくつられて部屋を見回し、僕は藤堂の視線の意味がわかったような気がした。家の中には僕のものだけで、もう彼女のものは一つもない。ものが残ると気持ちも残ってしまうので、ほとんどは随分前に片付けた。 「どうしたんですか?」  声を発したまま動かなくなった僕に、藤堂は怪訝な顔をして首を傾げる。 「なんでもない。冷める前に食べよう」  気づきはしたが、藤堂の前で彼女の話をするのはなんとなく嫌で、ゆるりと首を振り僕は藤堂の向かい側に腰を下ろした。 「佐樹さんってソファに役目を果たさせない、日本人体質ですね」  ソファとテーブルのあいだに腰を下ろした僕を見た藤堂は、突然噴き出すように笑う。確かに普段からあまりソファに座ることは少ない。座ってもなんとなく落ち着かなくて、いつの間にか床に直接座っていることがほとんどだった。 「食べるのに高さが合わないだろ。お前もそんなこと言ってないでこっち座れ」  こちらを見下ろしながらクスクスと笑う藤堂に眉をひそめ床を叩けば、のんびりとした動きで彼もまた床に腰を下ろし胡坐をかいた。 「藤堂って今時の子だから普段から椅子だろ?」  横に座った藤堂へ視線を向けると、彼はほんの少し首を傾げて考える素振りをする。

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