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第348話 邂逅 18-5
「……いいよ」
小さく呟いた声が、自分でもわかるくらいに上擦り掠れた。
「よかった」
嬉しそうに笑う藤堂の顔がゆっくりと近づき、ほんの少し唇が触れ合う。
いつもなら早まり落ち着かなくなる心臓は、いまはなぜか触れたぬくもりに安堵を感じていた。藤堂の優しい笑みに胸が温かくなる。
「藤堂」
「なんですか?」
「お前、さっきまでどこにいたんだ」
「え? あ、ああ。覚えてないんですね」
僕の問いかけに一瞬目を瞬かせた藤堂だったが、急に至極楽しげな表情を浮かべ笑い出す。
「……?」
そしてそんな藤堂の反応に、僕は大きく首を傾げた。
「佐樹さんが、寝る前にお風呂に入りたいって駄々をこねるから」
そう言って背後を指さす藤堂につられ、その先に視線を移せば、洗面所から光が微かに漏れていた。そしてしんとした中から水音が聞こえて来た。
「……あ」
それに気づくと、途端に羞恥で顔が熱くなる。早とちりもいいところだ。
「あの時、かなりウトウトしてたから仕方ないですよ。それなのに、不安にさせるようなことしてすみません」
「恥ずかしいから謝るな」
「お風呂、一緒に入ります?」
「馬鹿!」
からかうように笑う藤堂の肩を押して、熱くなる顔をそらせば、ますます触れる肩が大きく揺れた。
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