350 / 1096
第350話 邂逅 19-2
「とはいえ、そろそろ起きないとな」
今日は土曜日なので夕方からバイトがあるはず。寝かせておいてやりたいとは思うのだが、一度家にも帰らなくてはならない。僕は心を鬼にしつつ、再び藤堂の肩を揺すった。
「藤堂、起きろ」
「……ん」
ひたすら揺すり続ければ、小さな唸り声が聞こえて来た。また寝入ってしまわぬよう、僕はさらに強く肩を揺する。すると布団が大きく揺れ、その中で藤堂の身体が動いたのがわかった。
「起きたか?」
「……した」
「ん?」
くぐもった声に首を傾げれば、寝起きで掠れた返事が返ってくる。
「……起きました」
そろりと布団の中を覗くと、眠たげな眼差しがこちらを見上げた。しかしそれを見た僕が声を上げて笑った途端、不服そうにその目が歪む。
「佐樹さん、元気ですね」
もぞもぞと布団から這い出てきた藤堂は、いまだ眠気が覚めていないのか、枕を抱き身体をうつ伏せたままこちらを見ていた。けれど寝起きでローテンションな藤堂の頭を撫でれば、彼はふっと口元に笑みを浮かべる。
しかし笑った藤堂に油断していると、急に伸びてきた腕に引っ張られ倒れそうになる。
「ちょ、なにす……」
その勢いに僕は慌てて身を固くするが、抵抗虚しく寝返りを打って身体を仰向けた藤堂の上に僕は落ちた。
「おはよう佐樹さん」
「おそようだよ、馬鹿」
僕の身体を抱きしめ楽しげに笑う藤堂にため息をつくと、僕はこの腕からの脱出を試みた。けれど身体に力を込めれば込めるほど、抱きしめる腕の力も強くなる。
ともだちにシェアしよう!