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第351話 邂逅 19-3
「藤堂、離せ」
「ちょっと待ってください。もうちょっと」
「そんなこと言って、そのまま寝るだろうお前」
どこかゆったりとして来た藤堂の声音に気づいて、すぐ横にある顔を盗み見れば案の定、藤堂は再びうつらうつらとし始めていた。
「ほんとに寝起きが悪いよな」
その様子に呆れながら、僕は腕を持ち上げ藤堂の頬を摘み軽く引き伸ばす。無駄な肉がついていないので、ほんの少し引っ張っただけでも藤堂は眉をひそめて瞼を持ち上げる。
「起きろ」
「……わかりました」
渋々といった面持ちで僕の身体を離し、藤堂はひどく気だるげに起き上がる。しかし――僕はとっさに藤堂の身体を押して、再びベッドへ沈めてしまった。突然突き飛ばされた藤堂は状況がよく飲み込めていないのか、驚きの表情をあらわに目を瞬かせている。
「いきなりなんですか」
「や、ちょっと。思わず」
戸惑った目で僕を見つめる藤堂に乾いた笑いを浮かべ、少しずつ僕は後ろへ下がり距離を取る。そして近くのテーブルに置いていた袋を鷲掴み、それを藤堂に向かって放った。
「とりあえず、なんか着ろ」
「……ああ、そういうことですか」
うろたえる僕を尻目に藤堂は肩を揺らして笑うと、再び身体を起こした。そしてそれと同時に僕はふいと視線をそらして、ビニールの擦れる音と、微かに聞こえてくる衣擦れの音にだけ聞き耳を立てた。昨日寝る時、着替えさせてやれるものがなくて、とりあえず丈の足りないスウェットは履いているものの、サイズが違い過ぎて上に着られるものがなく、藤堂は上半身だけ裸だった。
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