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第352話 邂逅 19-4

 しばらくそのまま下を向いていると、ふいに身体を抱き寄せられる。 「これでいいですか?」  慌てて顔を上げれば小さく首を傾げた藤堂が、僕を見下ろし笑みを浮かべていた。けれど僕はとっさに抱き寄せられた身体を引き剥がそうと腕を突っ張る。 「ボタン留めろ!」  確かに藤堂はデニムを穿き、シャツを着てはいるが、シャツに関してはボタンが一つも留められておらず、羽織っているというのが正しい。 「今更、ですよね? 朝まで一緒に寝てたのに、ひどい反応ですね」 「言うな、言葉にするな!」  少し驚いたように目を瞬かせる藤堂の表情を見ると、一気に顔が熱くなる。元々なぜか藤堂に対してだけは、目のやり場に困ってしまうのに、一晩も藤堂の素肌に触れて同じベッドで寝ていたことを考えると――いまは正直、いつも以上の羞恥で卒倒しそうだった。 「佐樹さん? そんなに嫌だったなら、言って」 「……察せよ! 気づけよ! こっちは死ぬほど恥ずかしいんだよ」  困惑したように眉をひそめた藤堂の言葉を遮り押し退けると、僕は身を翻し戸の向こうに隠れた。そしてそんな僕の反応に藤堂は肩をすくめ、ため息をつきながら小さなボタンを留めていく。 「まあ、嫌じゃなかったならいいですけど」 「その話はしなくていい!」 「……ほんと、佐樹さんは可愛いね」  にこにこと笑みを浮かべた藤堂がゆっくりこちらへ近づいてくるが、僕は逃げ出すようにキッチンへ足を向けた。

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