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第353話 邂逅 20-1

 楽しげに笑う藤堂から逃れてキッチンに入った僕は、準備していた食事をカウンターテーブルに並べる。 「あれ? 佐樹さん、朝ご飯を作ったんですか」 「もう朝昼兼用だ」  欠伸を噛み締め、のんびりとした足取りでカウンターまでやってきた藤堂は、目を丸くしながらそこに乗せられている皿を見つめる。しかし作ったと言ってもそう大層なものではなく、ハムエッグにトースト、そしてサラダ。とりあえず切って焼いて盛ったというだけの代物だ。 「ああ、もう十一時だったんですね。佐樹さんは何時から起きてたの?」 「うーん、九時くらい」  椅子を引いて目の前に座った藤堂が、カウンターテーブルの上にある時計を見ながら小さく首を傾げる。その仕草に僕は肩をすくめ、珈琲をカップに注いだ。 「着替え、わざわざ買いに行ってくれたんですね」 「休みの日に起きてすぐ、制服を着るのってテンションが下がるだろ」 「ありがとうございます」 「うん」  至極嬉しそうに笑う藤堂の表情につられ、思わず頬が緩んでしまう。けれどそんなふわふわとした気分が恥ずかしくて、無駄に誤魔化そうとしたら、力み過ぎた眉間にしわが寄ってしまった。しかしそんなことはお見通しなのだろう、藤堂はますます笑みを深くする。 「やっぱりこういうのいいですね。朝起きたら佐樹さんがいて、一緒にご飯食べて、なに気ない時間を過ごせるって、すごく幸せな気分」 「大袈裟だな」 「でもほんとにそう思います」 「んー、まあ。思うけど」

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