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第354話 邂逅 20-2

 思わず素っ気ないもの言いになってしまったが、藤堂の言うようにのんびり過ぎるほどのんびりとしたこの時間は、確かに自分も幸せを感じる。もっと一緒にいる時間を増やすことができればいいとさえ思う。けれどそれは簡単そうでひどく難しい。 「ねぇ佐樹さん」 「ん?」  二つのカップを手に、カウンターへ回った僕を藤堂はじっと見つめる。 「なんだ?」  その視線に僕が首を傾げれば、カップを手から取り上げられテーブルに置かれた。藤堂の行動の意図がよくわからずますます首を捻ると、今度は手を取られ隣り合わせの椅子に座らされる。 「土曜日の夜は、ここに来てもいいですか?」 「え?」  まるで自分の気持ちが見透かされていたみたいで、藤堂の言葉に僕の心臓は跳ね上がった。 「もちろん佐樹さんが都合のいい時ですけど。一緒にいさせてくれませんか」  毎週日曜日、藤堂はバイトが休みだ。土曜日のバイト終わりに来てくれれば、次の日は夕方か夜まで、時間を気にせず一緒にいられる。しかしそれは普段でも少ない藤堂のプライベートな時間を、僕が奪ってしまうことにもなる。だからそう思っても口には出せなかった。 「迷惑ですか?」 「……じゃない。迷惑なんかじゃない」 「一緒にいてもいい?」 「ああ」 「じゃあ、土曜日はここに帰ってくるので、都合の悪い日は連絡くださいね」  気恥ずかしさと嬉しさで頭も気持ちもごちゃ混ぜで、自分がいまどんな表情をしているのか、それさえわからなくなる。俯いてじっと握られた手を見つめていると、ふいに持ち上げられた指先へ唇が寄せられる。

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