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第356話 邂逅 20-4

「いま、言うつもりはなかったんだけど気が変わった」 「なんですか?」 「卒業して家を出るなら、ここに来い。ここで一緒に暮らそう」  僕が藤堂に返せるものは、多分これくらいしかないと思う。叶うなら僕は、藤堂の家族になりたい。でもそれは現実的に考えると少し困難だ。だからせめて、彼の帰る場所になれればそれだけでいい。 「いますぐ決めなくても」 「……俺は、どんなことがあっても佐樹さんがいるところに必ず帰ってくるから」 「藤堂?」  ふいに過ぎる触れるだけの優しい口づけと、自分を見つめる彼の温かな微笑み。やはりすべてを見透かされているような気がする。 「俺の最後に帰る場所は佐樹さん、あなただよ。ありがとう、すごく嬉しいです」  その優しさにひどく泣きそうになる。  僕らのはじまりは思いがけぬ巡り合わせだった。けれどいまはそれさえも必然に変わり始めたような気がする。 「ん、わかった。じゃあ、ここでお前のこと、待ってる」  もしかしたら――本当のはじまりは、これからなのかもしれない。 [邂逅 / end]

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