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第360話 予感 1-4

 昨日の夜に母が突然やってきたので、食べぬまま片付けるのを忘れていた。 「そうよね。さっちゃんは精々カップラーメンにお湯注ぐのが限度よね」 「それ言い過ぎだろ。目玉焼きくらいは作れます」 「くらいしか作れないの間違いでしょ?」 「うっ……そうですね」  悪気などひとかけらも感じさせぬ顔でそう言い切られると、肯定しか答えがないような気がしてきた。のんびりとした雰囲気で一見天然ぽいとよく言われる母だが、無自覚に突っ込みが激しいところがある。  口先で勝った例しがない母親にこれ以上なにを言っても無駄な気がして、僕は新聞を手にカウンターに並べられた皿の前で椅子を引いた。 「いただきます」 「どうぞ、召し上がれ」  ハムとチーズをたっぷり挟んだホットサンドと、色味が鮮やかなサラダの前で両手を合わせれば、母は満面の笑みを浮かべた。 「お味はいかが?」 「ん、美味いよ」  首を傾げた母にそう答えれば嬉しそうに頬を緩める。答えるまでもなく彼女の料理は基本的に外れがないのだが。 「さっちゃん」 「なに?」 「イイ人できたの?」 「う……ん? な、なに?」  なに気ない調子で話しかける母に思わず返事をしかけて、僕は慌てて言葉を飲み込んだ。片手に掴んだ新聞がぐしゃりと音を立てる。

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