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第361話 予感 1-5
「冷蔵庫のお惣菜のこともそうだけど。さっちゃんが寝ぼけてでもあんなこと言うなんて、いままでじゃありえなかったでしょ。気持ちの整理はついたの?」
慌てふためく僕とは対照的に、やけに落ち着いた様子で母は僕をじっと見る。そしてその視線に僕は、一瞬言葉が喉奥に詰まってしまった。
「完全ってわけじゃないけど」
近頃は藤堂との距離が少しずつ縮まるにつれ、押し込んでいたものが溢れてくる。それは時折辛い記憶だったりもするけれど、なかったことにしてしまおうと蓋をしていた思い出は少しずつ整理でき始めていた。
「そう、でもいいと思うのよ。誰か別の人好きになって。ずっと言えなかったけど、もういいと思うの。向こうのご両親にはこんなこと言えないけど……忘れてしまっても、お母さんはいいと思う」
「……」
本当にずっと言えなかったのだろう。僕を見るその目には嘘はなくて、その気持ちが優しくて泣きそうになる。
「今年も、もうすぐだけど行くの?」
「ん、行く……でも、今年で終わりにする」
彼女が亡くなった日を毎年毎年、重たい気持ちで過ごしてきたけれど、それももう今年で終わりにするのだ。
「そう」
僕の言葉に小さく頷いた母の目からこぼれ落ちたものに、胸が痛んだ。
「ごめん」
あの日、ひたすらに頭を下げ続けた母の小さな背中が脳裏を掠める。この小さな身体に、肩に、どれほどのものを僕は背負わせて来たんだろうか。そう思うほどに鼻の奥がツンとして、つられるように目頭が熱くなった。
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