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第362話 予感 1-6
「なに謝ってるの。お母さん、さっちゃんが選んだ人ならなにも言わないわよ」
「ん、いまはまだ無理だけど。いつかちゃんと紹介するよ」
「そう、ありがとう」
嬉しそうに笑う母の顔にほっとした。でも少しだけ胸も詰まった。相手が同性だと――藤堂なのだと、知ったらどう思うだろう。それでもいまみたいに笑ってくれるのだろうかと、隠しているいまが後ろめたい。
でもこの人にだけは、笑って欲しいと思う。
「あら、やだ。さっちゃんそろそろ仕事行かないと。ごめんなさい、余計な話で遅くなっちゃった」
「やば、着替えてくる」
急にトーンが高くなった母の声に僕が目を丸くすると、カウンターを叩き時計を指差された。その時間に僕は慌てて立ち上がり部屋に走り込んだ。
「さっちゃーん」
「なにっ?」
慌ただしく着替えをしていると、戸の向こうから間延びした声が聞こえる。
「今日お部屋掃除してもいい? 恥ずかしいものは隠してないわよね」
「一体いつの話だよっ」
「じゃあ、いいのね?」
「勝手に」
念を押す声に勝手にしろと言いかけて、僕は自分でも驚くくらいの速さで後ろを振り返った。そして掴んだものを机の引き出しへ押し込めて、そこに鍵をかける。
鍵を探して漁った箱が棚から落ちてものすごい音を立てたが、そんなことも気にならないくらいの勢いで。
「大丈夫?」
「なんでもないっ。……危なかった」
心配げな声に返事をした僕は、急に押し寄せてきた疲れにため息をついてそれと共に肩を落とした。
「これがここにあるのはマズいよな」
引き出しの中で微笑んでいるであろう藤堂の姿を思い浮かべて、再び僕は大きなため息をついた。
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