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第364話 予感 2-2
「なんでもありません」
どうしてそんなに無防備なのだろうか。
「あっ」
俺がため息をついたのと同時か、驚きと戸惑いを含んだ小さな声が響いた。
突き刺すような視線を向けていた、俺の気配に気がついたのだろうか。彼の隣に座っていた子が慌てて立ち上がった。机の上に広げたノートと教科書を忙しなく閉じると、ペンケースが転がり落ちて床にその中身が散った。
「大丈夫か?」
そしてしゃがみ込んだ彼女と向かい合うよう屈んだ彼を、気づけば俺は目を細めて見下ろしていた。そしてそんな視線に気づくのはやはり彼ではなく。
「だ、大丈夫ですっ。あり、ありがとうございましたっ」
上擦った声でそう言って、彼女は散らかった物をかき集め準備室から飛び出していった。
「藤堂? ちょっと顔怖いぞ」
ため息交じりに立ち上がった彼が、俺の顔を見ながら困ったように眉をひそめる。
「すみません」
「別にちょっと勉強みてただけだぞ」
「わかってます」
そうでなければ部屋の戸を開け放したままでいるわけがない。しかし女子生徒への配慮だろうが、彼女がそんな配慮を望んでいたかは甚だ疑問だ。不必要なほど寄せた椅子も、俯く彼を覗き見るあの視線も、その内側にあるものを容易に想像させた。
杞憂だとわかっていても、彼の隣はいつだって自分の物なのだと声に出して主張したくなる。
「怒ってる?」
「いえ、別に」
見ているだけの頃はこんなに俺は嫉妬深かっただろうか。
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