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第365話 予感 2-3

 いや、見ていられるだけで充分と諦めていた。彼に触れてはいけないのだと、自分に言い聞かせていたんだ。でもいまは、この人を手に入れて欲深くなってしまった。もっともっと――と彼を誰かに見せることも、触れさせるのも惜しくなった。 「じゃあ、なんでいつまでもそんな怖い顔してるんだ?」  真っ黒な俺の嫉妬心に気づいているのか、いないのか。開け放したままだった戸を閉めて、彼はからかいを含んだ意地悪げな笑みを浮かべる。 「あなたがあまりにも無防備で心配になっただけです」 「ふぅん。そうか」 「なんでそんなに楽しそうなんですか」  目の前で俺を見上げる彼の目がやんわり細められ、口元がふいに緩んだ。その表情に眉をひそめれば、ますます楽しげな顔をする。 「結構、藤堂のそういう顔好きだなと思って」 「あの、言ってる意味がよくわからないんですけど」 「ん、笑ってる顔が一番好きだけど、そういう本気な感じがちょっと、優越感? なんか嬉しい」 「……」  どうしてこんなに無自覚なんだろう。その一言が俺の気持ちを煽るというのに。  無邪気に笑うその顔を見ていると、先ほどよりもずっと激しいめまいを感じて、一瞬気が遠くなりそうになった。そして彼は俺のそんな気持ちを知ってか知らずか、小さく首を傾げて目を瞬かせる。 「ほんとに、俺を試してるんですか」 「え?」  その仕草を見つめ返しながら息を吐いた俺は、それ以上の言葉が思い浮かばず諦めを感じて背を向けた。

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