365 / 1096
第365話 予感 2-3
いや、見ていられるだけで充分と諦めていた。彼に触れてはいけないのだと、自分に言い聞かせていたんだ。でもいまは、この人を手に入れて欲深くなってしまった。もっともっと――と彼を誰かに見せることも、触れさせるのも惜しくなった。
「じゃあ、なんでいつまでもそんな怖い顔してるんだ?」
真っ黒な俺の嫉妬心に気づいているのか、いないのか。開け放したままだった戸を閉めて、彼はからかいを含んだ意地悪げな笑みを浮かべる。
「あなたがあまりにも無防備で心配になっただけです」
「ふぅん。そうか」
「なんでそんなに楽しそうなんですか」
目の前で俺を見上げる彼の目がやんわり細められ、口元がふいに緩んだ。その表情に眉をひそめれば、ますます楽しげな顔をする。
「結構、藤堂のそういう顔好きだなと思って」
「あの、言ってる意味がよくわからないんですけど」
「ん、笑ってる顔が一番好きだけど、そういう本気な感じがちょっと、優越感? なんか嬉しい」
「……」
どうしてこんなに無自覚なんだろう。その一言が俺の気持ちを煽るというのに。
無邪気に笑うその顔を見ていると、先ほどよりもずっと激しいめまいを感じて、一瞬気が遠くなりそうになった。そして彼は俺のそんな気持ちを知ってか知らずか、小さく首を傾げて目を瞬かせる。
「ほんとに、俺を試してるんですか」
「え?」
その仕草を見つめ返しながら息を吐いた俺は、それ以上の言葉が思い浮かばず諦めを感じて背を向けた。
ともだちにシェアしよう!