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第368話 予感 2-6
彼の心の奥にあるしこりは俺が傍にいるだけでは消えないくらい大きく、優し過ぎる彼をいまだに苦しめているのだろうか。
それとも――俺の存在が彼を不安にさせているのだろうかと、そう思うたびにいつもいまはもうこの世にはないはずの影がちらついて、その大きさを思い知らされる。
出会うのがあの人より早ければ、もう少しだけ俺が早く生まれていたら、俺はこの人を救えただろうか。
「ちゃんと俺を見てください」
以前よりずっと素直でまっすぐで雰囲気も柔らかくなったと思う。でも時々、一人でまだなにか抱えるみたいに不安げで揺らめいて見える。
自分だけを見てと思うことは、彼を困らせることだろうか。
「佐樹さん」
指先を顎にかけて俯いた顔を持ち上げれば、赤く染まった頬と少しだけ潤んだ目がこちらを見た。その目に映る自分を見ると少しほっとする。
「これはどっちが正解ですか」
黙ったままの彼に首を傾げて見せると、泳いだ目が伏せられた。そしてそれが合図であるかのように、俺は彼の身体を抱き寄せてその唇を優しく塞ぐ。
「……ん」
ほんのわずか鼻先から抜けた甘い声に気をよくして、さらに深く押し入れば切なげに眉を寄せた彼の指先に力がこもる。
時折こうして甘えてくる彼が可愛くて愛しくてたまらない。とことん甘やかして、彼のすべてを溶かしてしまいたい。ずっとこの腕に閉じ込めておきたいと思う自分は、やはり我慢強さなどというものからは、ほど遠い気がした。
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