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第370話 予感 3-2

 公私混同もいいところだ。頭の切り替えがまったくもってできていない。 「西岡先生は元々字が綺麗だからいいけどさ。これが木野先生だったら目も当てらんないよなぁ」 「言えてるーっ」  生徒の笑い声に黒板を振り返れば、お世話にも見やすいとは言いがたい文字がそこには並んでいた。確かにこれが同じ教科を教えている木野先生だとしたら、解読の難度が上がるだろう。毛筆であれば流れるような綺麗な文字と言えるが、硬いチョークで書かれた流れる文字は正直、見にくい。 「こら、木野先生は達筆なんだよ」  口ではフォローしながらも、ついつい生徒たち同様そう思ってしまった自分はなんとも大人げない。 「とりあえず、解読できなかったらあとで聞きにくること。あと、明日からテスト準備期間に入るので、職員室と準備室は立ち入り禁止だから」 「今回はどっちが作るんですかぁ」 「ん? 今回は木野先生」  挙手した生徒の質問になに気なく答えると、一斉に教室内からブーイングが起こった。  僕の受け持ちは二年だが、クラス数が多いため木野先生と受け持ちを二分している。だからどうしても、テストは僕か木野先生どちらかの作成になってしまう。ブーイングの意味がわからず首を捻るとざわめきがさらに広まる。 「なんだその声は」 「えー、木野先生の作る問題ってやたら複雑だし、わかりにくいし、面倒くさいんだよなぁ」

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