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第375話 予感 4-3
久しぶりに聞いたその言葉にほんの少しはっとした。学校に慣れ始めた頃にそう言ってくれたのも、そういえば新崎先生だ。でもここ数年その言葉をほかの先生から言われることがあっても、新崎先生から聞くことはなかった。それがいまこうしてまたその言葉をくれるということは、多分きっと僕は新崎先生から見てもわかるくらい、藤堂や峰岸のように変わったのだろう。
「じゃあ、また」
ふいに足を止めた新崎先生は、立ち尽くしていた僕を振り返り片手をあげた。横に小さく振られるその手のひらを見つめ、我に返った僕はそこが中二階――準備室へと続く廊下の手前であることにやっと気がついた。
「ありがとうございました」
思考が戻った途端、思わず口からついて出た言葉と共に、僕はなぜか反射的に深々と頭を下げた。そんな僕の行動に新崎先生は小さく笑い、こちらに背を向け歩き出した。
「ああ、それと」
「……」
しばらく下げたままだった頭を声に弾かれるよう持ち上げれば、新崎先生は一階に降り立ち僕を振り仰いでいた。その姿にわけもわからず首を傾げていると、ゆるりと口の端を持ち上げて新崎先生が笑った。
「先日の連休に実家へ帰った飯田先生が、お土産のお菓子持ってきていました。たまにはお茶しにいらっしゃい。みんな、寂しがっていますよ。もちろん、私もね」
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