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第378話 予感 5-2
「あー、悪い。大丈夫だから」
見回したこの場所は放課後の生徒会室。創立祭の準備も一段落し、実行委員は早めに切り上げることが多くなった。いまは会長である峰岸と書記の野上七緒、生徒会補佐の柏木三國がいるだけだ。生徒会にはほかに役員があと四人ほどいるが、今日はまだ姿が見えない。
目の前で心配げな眼差しをしているのが野上。その背後で書類を片手に訝しげな顔をしているのが柏木だ。二人の視線になんとも言いがたい気持ちになる。
「ニッシー、だいじょーぶ?」
パソコンで来賓名簿の作成をしていた野上が、ハガキを片手に頬杖をつきながら目を瞬かせた。視線とは裏腹なのんびりした声音に思わず気が抜けそうになってしまった。
二年生の野上は担当教科でも顔を合わせるが、今回実行委員長になった神楽坂の幼馴染みらしく、僕へのあだ名がどうも完全に移ってしまっている。いまだ僕の名をまともに呼んだ例しがない。
「ああ、大丈夫」
「そ、ならいいけど。五分くらい魂抜けてたよ?」
僕の言葉に苦笑して、小さく首を傾げた野上の髪がさらりと揺れた。
その少し長めなキャラメル色の髪と、ネクタイを緩めて着崩された制服はいかにも今時の子だなという印象。そしてその印象を助長させるように野上は誰に対しても言葉も態度も軽く、生徒会以外の場所で出会うといつも女子をはべらせていた。けれど峰岸同様、見かけによらず意外と真面目な子だなんだと最近知った。今日も誰よりも先にここへ来て、コツコツと名簿作りをしていた。
「お前こそ大丈夫かよ。人の心配より自分の仕事しろ」
「ひ、ひどい会長。これでも一生懸命やってんのに」
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