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第379話 予感 5-3

 野上や僕が作業している長机から少し離れた場所にある峰岸の机。そこから小さく丸められた紙くずが飛んできて、見事にそれは野上の頭にこつんと当たった。それは吹けば飛ぶような紙くずだったけれど、野上は大げさに痛がった素振りをして口を尖らせた。 「いてぇのはお前の頭が空っぽだからだ」 「がーん、会長の愛って冷たい」  さらに立て続けて飛んでくる紙くずに、しょぼんと肩を落とす野上の姿は申し訳ないが笑いを誘う。峰岸の気に入ったものをいじる悪い癖は相変わらずで、よくよく見ているとすごくわかりやすい。とはいえ相手は峰岸、いつでもいじられている本人たちは戦々恐々だ。 「俺に愛されたきゃ仕事しろ」  でもその癖に気づいているのか、不思議と野上は恐れることなく峰岸によく懐いている。 「会長こそごみ撒き散らしてないで仕事したらどうですか」  しかしそれをよく思わないのもいる。二人のやりとりに大きなため息を吐き出し、床に落ちた紙くずを拾い上げた柏木だ。あからさまに苛ついた表情で峰岸を黙視し、眉をひそめた。 「やることやってんだよ俺は」  ふいと顔をそらした峰岸の態度に、柏木はさらに苛々とした感情をあらわにする。 「やっていればなんでも許されるわけじゃないです」 「ハイハイ、毎日毎日うるせぇな」  その苛つきを感じながらも、投げやりな態度で峰岸は手元のファイルを強く机に叩きつけた。その乾いた音に野上は目を丸くし、柏木は小さく舌打ちする。  棘のある言葉が行き交い一見すると険悪かと思える二人のやりとりは、意外とよくある見慣れた光景だったりする。

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