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第382話 予感 6-1
書類の上に転がった小さな紙くずと、目を細めてこちらを見ている峰岸とを見比べれば、大きく肩を落としてため息をつかれた。
そのため息の意味がよくわからず首を傾げたら、今度は指先で招き寄せられる。
「なんだ?」
招かれるまま峰岸の机へ近づいてみれば、唐突に腕を掴まれ峰岸の座る椅子の横へ移動させられた。
「なんだじゃねぇだろ。んなぼーっとするほど暇かよ」
「……や、そういうわけじゃないぞ」
感慨を覚えてぼんやりしていたのは確かだけれど。
「ったく、世話焼ける大人だなぁセンセは」
並び立った僕をちらりと見上げ掴んだ腕を放すと、峰岸はパソコンの画面に向き直り手慣れた様子でキーボードを叩く。途端に黙々と仕事をし始めた峰岸に戸惑いつつも、僕は邪魔にならぬよう手近の椅子を寄せてそっと画面を覗き込んだ。
「これ誰作ったんだ」
峰岸の作業する来賓リストは実に見やすく使い勝手がよさげだった。今時のOLでもここまで綺麗に整理された表はなかなか作れないだろう。
「……俺」
やや間を置いて峰岸がぽつりと呟くような声で応える。
「ふぅん。お前こういうの得意だったんだな」
「見かけに寄らず」
「え?」
まるで心の中を読むみたいに峰岸はにやりと片頬を上げて呟いた。そして僕はそんな予想外の反応にうろたえ、通常の二倍ほどの速さではないかと思えるくらいに何度も瞬きを繰り返してしまった。
「センセいつも言ってんだろ」
顔に書いてある――そう言って笑みを深くすると、峰岸は僕の頬を軽くつまんだ。
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