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第385話 予感 6-4
僕らが振り返った先でにこにこと笑みを浮かべていたのは、副会長の鳥羽由香里だった。
彼女はふわふわとした栗色の髪と柔らかい茶色の瞳が相まって、フランス人形を彷彿させる美少女と言って間違いのない子だ。そんな彼女は見た目に反して純和風、茶道部の部長も兼務している。
「創立祭まで間もないし、この仕事終わらせてしまわないとね。だから少し早めに切り上げて来ましたの。ナナちゃん、サボらずちゃんとしてた?」
楚々とした佇まいで野上の横に立った鳥羽は、小さく首を傾げ野上のパソコンを覗いた。
「俺はサボってないよ。会長はさっきからニッシーにセクハラしまくりだけどねぇ」
鳥羽を見上げながらため息交じりに野上がこちらへ視線を投げると、彼女は目を瞬かせ再び小さく首を傾げる。二人の視線の先では、峰岸に抱きつかれそれを必死で引き剥がそうとする僕がいた。
「西岡先生、従順な猫ちゃんもうっかり爪が出るものだから、気をつけてくださいね」
ふふっと楽しげな笑みを浮かべて、ちらりと鳥羽は峰岸に目配せする。けれどそれもほんの一瞬で、お茶でも淹れましょう――と言いながら、鳥羽は生徒会室に備えつけてある申し訳程度の給湯室へ向かった。
助けてくれる気はさらさらないようだ。猫は猫でも猫科のライオン一頭、僕にどうしろというのか。
「ゆかりーん、俺ココアがいいなぁ」
「……濃い目のブラックでいいのかしら」
「う、贅沢言わずみんなと一緒でいいです」
相変わらずの光景を眺めながらついため息がもれた。もう僕もそんなに若くもないと言うのに、このアップダウンの激しいペースで振り回されるのはかなり辛いものがある。けれどそんな空気が嫌いになれない自分もいた。
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