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第386話 予感 7-1

 室内に珈琲の香りが広がる。備え付けのコーヒーメーカーは備品の安物だけれど、手挽きのミルで豆を挽くので香りも味もいい。中でも鳥羽が淹れる珈琲が一番美味しいのだ。 「ねぇ、ちょっとゆかりんっ、これ激アツなんだけど」 「あら? ナナちゃん熱いの好きよね?」 「またそーやって意地悪する……俺は猫舌だってば」 「そうだったかしら?」  鳥羽のいたずらに野上が悲鳴を上げた。涙目になりながら火傷したらしい舌を出す野上に、鳥羽は至極楽しそうに笑う。相変わらずのいじられ役な野上は、その反応にガックリと肩を落とすと、冷水を柏木からもらい小さくぶつぶつと文句を呟く。 「もー、会長もゆかりんもドS過ぎっ。俺の身が持たないっつーの。マジ痛いんですけど」  のほほんとしたところが神楽坂に似ているせいか、野上のその姿は何となく既視感を覚える。そう思うとつい笑ってしまうがなんとも可哀想な二人だ。  賑やかな空気にほんの少し脱力していると、自然と笑みが浮かんでくる。それはふいに遠ざかっていたものが近づくような感覚。この雰囲気は以前、自分のクラスを持っていた頃を思い出させる。 「……懐かしいな」  そんな無意識な感情に気がつきほっと息をついた僕の前に、青い水玉模様のマグカップ置かれる。それを目に留めて僕の胸は少しまた寂しさを覚えた。 「はい、西岡先生」  僕のそんな気持ちに気づいているのかいないのか。峰岸からやっとのことで逃げ延びて、長机に上半身を預けていた僕を覗き込むように鳥羽は身体を傾ける。

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