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第387話 予感 7-2
じっとマグカップを見つめていた僕はその視線に顔を上げた。
「先生のマグカップ、これからは使う機会が少なくなってしまいますわね」
やはり心のうちを読まれていたのか、やんわりと目を細めて鳥羽は小さく微笑む。
どうしていまの子たちはみんなこうも聡いのだろう。それともいまの僕はそんな簡単に悟られるほどわかりやすい顔をしているのか。でも面倒くさいと思うことはよくあったが、寂しいと思うことは最近まで少なかった。いつの間にか忘れていた寂しいという気持ちを、いまになって思い出したのかもしれない。それが誰のおかげかと考えれば浮かぶのは一人。
「いっそセンセうちの顧問代わるか?」
物思いにふける僕に峰岸のからかいを含んだ声がかけられる。しかしそれに乗じ――あら、いいですわねと、軽やかな笑い声を上げた鳥羽からはちっとも冗談が感じられない。正規顧問の間宮の立場がなんだか物悲しいが、思わず堪えた笑いが僕の喉を鳴らした。
「でも俺がいるあいだだけだぜ」
いつの間にか抜けた肩の力。それを見計らったように再び峰岸は笑みを浮かべ、小さく丸めた紙くずを僕に向けて放った。放物線を描くそれを見ていたら、コツンとまた僕の頭に命中した。
「九月には解散して新しくなるんだよな」
生徒会の任期は九月の始め頃までだ。生徒総会が終わり新しい生徒会のメンバーへ引き継がれる。三年生は会長の峰岸と副会長の鳥羽、ここにはいない会計の女子生徒の三人。この三人はあとわずかな任期で、残りの野上を始めとする二年生たちや生徒会補佐の柏木などは、自薦他薦の選出なので役職が変わっても次の生徒会に引き継がれる可能性は高い。
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