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第390話 予感 8-1

 峰岸が藤堂を好きなんだということは、諦めたと言われたいまでもわかる。以前より確かに僕と藤堂から一歩引く感じはあるけれど、一緒にいる時はなんとなく嬉しそうだ。  正直に言うならその様子は複雑で、あんまりいい気分ではない。でもなぜこう僕に対しても本気で怒るのかがいまだに理解できない。 「峰岸、鬱陶しい」  背中にべったりと張り付く大型猫、どうにかならないものか。廊下を歩く生徒があからさまに僕を避けて通っていく。 「嫌だ」 「あのな、駄々こねるんじゃない」 「嫌だね」  ボソリと呟き、峰岸はついには思いっきり僕を背後から抱き抱えるようにして、廊下の真ん中で立ち止まってしまった。ぎゅうぎゅうと締め付けられていささか苦しくなってくる。本人は擦り寄ってるだけなつもりだろうが、僕と峰岸の体格差を考えて欲しい。 「おぉーい、こんなとこで立ち止まるな」  生徒会役員を解散させて、あとは役員室の鍵を返しに行けば僕の業務もこれで終了だと言うのに、職員室まであと五十メートル足らず。しかも生徒玄関のほぼ中程だ。  これは嫌がらせなのか? 廊下を歩くよりも生徒の目が痛い。 「センセはなんで先生やってんだ」 「は?」  重たいため息が僕の口からもれたのと同時か、なんの脈絡もなく唐突に問いかけられた意味不明な言葉。一瞬なにを聞かれたのかわからず、そのため息を飲み込んでしまった。 「峰岸? どうした」 「いや、ふと思っただけ。先生になりたかったんだ?」 「……まあ、うん。そうだな」  ありきたりな理由だけれど、高校の時に新崎先生みたいな先生がいた。ちょうど父を亡くしたばかりで、へこむ僕にすごく親身になってくれたその先生に憧れたのが、多分一番の要因だろう。

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