394 / 1096
第394話 予感 9-1
本当に峰岸と藤堂はよく似ている。だからこそお互いの距離を保てたのだろうなと、やっとわかったような気がした。性格はまったくの真逆だけれど、心の性質はひどく似通っている。以前の二人は背中合わせにぴったりと寄り添い立っていたのだろう。きっとそうすることで足りない部分を補い合い、バランスを取っていた。
だからと言って、自分が持つ峰岸に対する感情は藤堂のものとはまったく違う。どうしたって峰岸は自分の弟のような身近さだ。好きだとか、付き合おうとか言われてもまったくしっくり来ない。
「相変わらず、達観してるな西岡は」
「そうか?」
峰岸のあのキスはいたずらでもからかいでもなかった。まっすぐな目が、本当に慈しむみたいに僕を見ていた。守ってあげると言った言葉はきっと嘘じゃなくて、心からそう思ってくれたんだろう。
でも周りから見たらそれは度を超したいたずらにしか見えなくて、呆れたり不快に思われたりする。目の前で顔をしかめる飯田も言葉にならないという顔をしていた。
「ほら、挨拶みたいな」
「あ、挨拶って、いつからあいつは外国人になったんだ」
「ああ、それだ。そんな感じ」
あっけらかんと言い放った僕の肩に手を置き、脱力してうな垂れた飯田に思わず笑ってしまった。
飯田は一見する容姿と違い、人がよくて心配性だ。ぱっと見はいささか軽薄そうに見られがちなきつい目をしていて、どこか飄々とした雰囲気と整った風貌が相まって冷たそうとよく言われる。それでも生徒受けがいいのは、紳士的な立ち振る舞いとそれに相応しいすらりとした見目のいい容姿のおかげだろうか。
そんな彼もまた、類は友を呼ぶという言葉に当てはまらない――僕の親しい友人だ。
「そういや、おめでとう。結婚したんだってな」
「おぅ、今度うちに来いよ。うちの嫁さん紹介してやる」
やっと言えた祝辞に満足して笑えば、つられたように飯田もふっと笑みをこぼした。その瞬間、長らく僕と飯田のあいだにできていた見えない溝が埋まった気がした。
ともだちにシェアしよう!