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第396話 予感 9-3
「お前は相変わらずだなぁ、立ち位置がいつも生徒寄りだ。でもそういうまっすぐさってのはちょっと羨ましい」
「まっすぐと言うか、もしかしたら空気読めない単なる馬鹿なのかもしれないけど。遠くて一番近い大人って僕ら教師な気がして」
藤堂なんかは子供扱いするなと機嫌を損ねるかもしれないけど。いましかできないことも、いまじゃなきゃいけないこともきっとたくさんある気がして、いつだってみんなが、藤堂が――前途多難な未来ではないよう願わずにいられない。
「そうだなぁ、あん時も西岡がいたらなんか変わってたのかもな」
「あの時って?」
どこか懐かしみながらも眉間にしわを寄せる、複雑げな表情を浮かべた飯田に、僕は訝しく思いながら首を捻った。じっと答えを待つそんな僕に、飯田は明らかに失敗したと言いたげな顔をする。
「ん、ああ。いや、ここだけの話な」
ふいに声を潜めてこちらへ身を屈めた飯田は、僕を招き寄せて内緒話するよう口元に片手を当てて衝立をした。放課後のひと気が少ない職員室でそこまで気にするようなことなのかと、疑問に思いながら僕もまた身を潜め耳を傾けた。
「あいつが一年の時、一度クレーム入ったことあるんだよ。確か一年の半ば過ぎくらいだったかな」
「クレーム? 保護者から?」
「そ、んで。ちょっと学年の先生方だけで内々に職員会議したことあってさ。俺、その頃に副担してたから一応それ出たんだけど」
「会議するような内容なのか? 峰岸って、停学とか食らったことあったけ?」
一年の時と言えばまだ藤堂とよく一緒にいた頃のはず、一体峰岸はなにをやらかしたんだ。
「んー、それが……未成年者がいちゃいけない繁華街で何度か目撃されてた、らしいみたいな」
「なんだよ、その歯切れの悪い言い方」
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