397 / 1096
第397話 予感 9-4
なにか奥歯に物が挟まったような、すっきりしない飯田の言葉に自然と眉をひそめてしまった。そんな僕の表情に飯田もまた困ったように苦笑いを浮かべた。
「いや、話では一人でってことらしいんだけど、なんか違うような気がしたんだよな」
ぽつりと呟くような飯田の声。その声を聞きながら、無意識のうちに珈琲の入ったカップを握りしめている自分がいた。
「峰岸はなんて?」
「個人面談の時に事実は認めたけど、誰かと一緒だったかって言うこちら側の話にはまったく口開かなくてさ」
ふいに心臓が大きく跳ねた。それって、その相手って、もしかしなくても――。
「俺は、それ藤堂じゃないかと思ってんだけど」
「……っ」
いままさに思っていたことを言葉にされて、気を紛らせるためにすすった珈琲を思わず吹き出しかけた。そしてとっさに飲み込んだ珈琲は気管に入りかけ、思いきりむせてしまった。
「いやぁ、お前が驚くのは無理ないけど。あの頃はあいつらほんと常に一緒だったし」
僕の心情など想像できないだろう飯田は、むせて咳き込む僕の背を軽く叩きながら少し遠い目をする。なにかを悩んでいるようなその顔をじっと見つめ、僕は途切れた言葉の先を待った。
「けどそれからは少し変わったな。藤堂がバイト始めたのも峰岸がきっかけだったのに、その後すぐ峰岸はバイト辞めちまうし。少しずつ二人の距離が開いてくって言うか、峰岸が避けてる感じがしてさ」
「え?」
「まあ、こちら側でクラス一緒にならないように根回しあったけどな」
これが藤堂と峰岸が離ればなれになった原因なのだろうか。
ともだちにシェアしよう!