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第399話 予感 10-1
いつもと変わらぬ帰り道、珍しい人物が道沿いのガードレールに腰かけてぼんやりと暗い空を、月を眺めていた。
その様子は初めてあの人にメールをもらった時のことを思い出すけれど、もちろんそこにいる人はその時とは違う。
「おいコラ、藤堂シカトしてんじゃねぇ」
わざと気づかぬふりをしてその前を通り過ぎようとしたら、案の定不機嫌そうな声が俺を呼び止めた。蹴り飛ばされた小石が足元に転がる。
「なにしてるんだ」
「見りゃわかるだろ? お前を待ってたんだよ」
「ふぅん、珍しいな。いつもなら遠慮もなしに更衣室を陣取ってるくせに」
マネージャーの弟で、何度かバイトにも入ったことがある峰岸は、部外者でありながらもほぼ顔パスで守衛の前を通り過ぎることが可能だ。それを甘受するほうもどうかと思うが、いつもさも当たり前な顔であの場所に峰岸はいる。
「明日は雨か、雪でも降るか」
それなのに人目を避けるようにこんなとこで待ちぼうけているなんて、なんとなく面倒くさい予感がした。
「たまには二人で話したいこともあんだろ」
「俺にはないけどな」
足を止めない俺の後ろでゆっくりと立ち上がった峰岸は、さしてそれを気にした素振りも見せずに、軽い身のこなしで歩みより真後ろから腕を伸ばしてきた。
「相変わらず冷てぇ男だな」
「お前の行動ただの変質者だぞ」
背中にかかった重みをとっさに振り払いかけて、一息つきそれを躊躇してしまった。けれどしがみつくように強く峰岸の腕が首に絡み、正直ウザったくて重たくて邪魔くさい。
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