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第401話 予感 10-3

「へぇ、そうか。まあ、お前が言うならそうなのかもな」  俺の心情を知ってか知らずか、まるで他人事のように納得しながら、峰岸はさもおかしそうに笑う。 「まあ、俺もどっちか選べねぇしな」  ふとため息に混じった峰岸の小さな呟きは、あえて聞かぬふりをした。 「いい加減、離れろ。歩きにくい」  しばらくずるずると峰岸を軽く引きずるように歩いていたが、さすがに図体のデカイ荷物を背負って駅まで歩く気にはならない。振りほどいてやろうと腕を掴んだら、思いのほかそれは呆気なく離れて行った。 「あんま、いい予感しないぜ」 「は?」 「お前とセンセ」  どこか神妙な声音に振り向けば、峰岸はまた顔を上げ空を眺めていた。その姿を訝しく思い首を捻って見せると、ふっと苦笑いを浮かべて峰岸の視線がこちらを向く。 「お前、すっかり人間らしくなったな。前はどっか作りもんみたいな雰囲気だったのに、ほんと変わったな」 「なんなんだ、意味がわからない」 「近そうで遠い月みたいだったのに、いまじゃ太陽の光を追っかけてる昼間に咲く花だ」  ちっとも噛み合わない会話。けれど峰岸は一人納得したみたいに小さく笑って頷く。その少し寂しそうな横顔に胸がもやもやとしたが、また道沿いのガードレールに腰を下ろした峰岸がゆるりと笑みを浮かべたのを見て、思わず舌打ちしてしまった。 「甘いなぁお前は。俺を一人にしたこと後悔するなんてらしくもない。今更そんなものはいらねぇよ。お前が優しいのは気色悪い」

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