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第404話 予感 11-1

 この先、あの人と俺のあいだに起きること?  それは考えるほどに色々あり過ぎて、どれが問題なのか、なにが起きるのか、それさえもよくわからない。今朝だって泣きそうな顔をして自分を見ていた。なにがあったのかは聞けなかったけれど、多分きっと彼を不安にさせるなにかがあったんだろう。  でも現在、過去未来――どこを見たって、なにごともない場所はない。  ふっと吐き出した自分のため息が思いのほか重たく、肩が落ちた。しかし制服のポケットで震えた携帯電話に、そのため息すら一瞬で忘れてしまった。 「佐樹さん?」  恐る恐るそれを耳に当てれば、柔らかい声が自分を呼ぶ。それだけで嫌なこともなにもかも忘れてしまう、そんな気さえした。 「いま、大丈夫か? もう家に着いたか?」 「大丈夫ですよ。丁度、玄関の前です」  どこかたどたどしい声に自然と笑みが浮かぶ。普段からまったくと言っていいほど電話もメールもして来ない彼が、自分のことを気にしながら時間を過ごしていたのかと思えば、ニヤニヤと口元が緩んでしまう。 「そうか、かけ直したほうがいいか?」 「構いませんよ。どうせ誰もいませんから」  鍵を開け、扉を引けば真っ暗でしんとした空間が目の前に広がっていた。けれどそれもいつものこと、帰って人がいることはほとんどない。 「……そうか」  ふいに沈んだ声になんとなく胸が苦しくなる。優しい彼にこんな些細なことで気に病ませてしまう、それが悲しくなった。

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