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第406話 予感 11-3
どこで知り合ったのか聞かれたことがあるので、学校で知り合ったことはなんとなく伝えた。だから卒業生と思われているかもしれないが、深く追求されることもないのでそのまま曖昧な状態だ。
「なにかありました?」
「んー、お前にまた会いたいとか言うから、なんかヒヤヒヤしてさ。この前、作ってもらったの食べ損ねて、冷蔵庫に入れてんのバレたんだよな。いい人できたの? なんて聞かれるし」
「ああ、なるほど」
弁当用にレシピを聞くことは多い。勉強にと理由こそつけているが、物や味を見られると正直誤魔化しようがなく。俺が彼と頻繁に会っているのはなんとなくは気取られるだろう。
「あ、別にやましいとかそんなんじゃないからな。ただ、まだちゃんと話すのは」
「わかってます。大丈夫ですよ」
自分との関係を公にして欲しいと思ったことはない。不利になるのは彼だし、悔しいがいまはまだ俺は自分自身の責任すら取れない立場だ。
あと少し、もう少し時間が経って自分の手で彼を守れるようになってから、それからじゃなければ絶対に言えない。言ってはいけないと思う。
「ごめんな」
「どうして謝るんですか」
「あ、いや。なんとなく」
言葉を濁す彼をいますぐにでも抱きしめてあげたいと思った。彼が謝ることなんて一つもない。母親にさえ簡単には言えない相手と付き合わせてしまっているのは俺なんだ。
それでも彼はいつだって言葉にできないことを、人目を気にせずいられないことをごめんと言う。彼が悪いわけではないのに。
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