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第409話 予感 11-6

「父のお兄さんですか」 「そうだ、覚えてたか? 川端だよ」  なにがおかしいのか一人で笑っている電話の向こうにいる男は、川端――つまり本家の人間か。  この家の主は父親の川端ではなく母方の姓を名乗っているので、兄弟でありながら名字が違う。本家には入れなかったいわゆる妾の子だ。最近は家にも寄りつかず、どこでなにをしているのかもわからない。けれどいまはそれさえ考えるのが面倒くさかった。 「父はいませんが」 「いや、今日は君に用があったんだよ」 「は?」  いつ会ったのかさえわからないくらいの親戚が、自分になんの用があると言うのか。途端に嫌な気分になった。ふいに峰岸の言葉を思い出す。 「お母さんから話を聞いてね。いま、優哉くんが通う学校は伯父さんも少し出資してるんだ。なかなか成績優秀らしいじゃないか」  いい予感がしない?  まったくだ。聞こえてくる声に胃の辺りがジリジリとした。以前、峰岸に親の話はしたことがある。面倒くさい家だなと笑っていたのが懐かしく思えた。 「いえ、それほどは」  私立であるうちの高校には、多くはないがいくつかの会社や資産のある卒業生が出資している。本家の川端は資産家だ。元々、母親が結婚したのもそれ目当てで、当時は親戚に男がいなかったから、うまくいけばと打算があったんだ。でもいまは本家に直系の男子も生まれた。すでに俺の父親が違うと旦那にもバレている。  今度はなにを考えているのか――重たいため息がもれた。 [予感/end]

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