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第412話 波紋 1-3
「なにかあったのか?」
ヨレヨレという言葉がぴったりなくらい、憔悴している野上の様子に思わず目を見張ってしまう。
「んー、印刷機が途中で機嫌損ねちゃってさ。マジ焦ったんだけど、会長の器用さで復活してとりあえず必要分は印刷してきましたっ」
「まったく言ってくれれば職員室のコピー機使えたのに、ご苦労さん」
顔や手のあちこちにインクをつけている野上の頭を撫でてやれば、またへらりと笑ってのそのそと立ち上がった。
「コピー機は経費かかるから駄目だって会長が言うからさ」
「そっか朝から大変だったな。終わったらジュースでもおごってやろう」
「マジ? ラッキー、んじゃ残りの予備分ができたらまた来るから」
背筋を伸ばして敬礼の真似事をすると、野上はくるりと踵を返して廊下へ飛び出していった。そんな野上の後ろ姿に、いつの間にかこちらを見ていた職員全員が微笑ましげに笑っていた。
「なんつーか、野上はほんと気が抜けるよな」
「和むだろ? 生徒会でもいいムードメーカーだよ」
呆れ半分、感心半分といった声に肩をすくめれば、確かに、と野上の去った先を見ながら飯田は吹き出すように笑った。
「じゃあこれもらっていくな」
「ああ、待たせて悪かったな」
分厚い束を飯田に引き渡し、一部だけ手元に残された名簿をめくる。
「そういえばチェックも峰岸が全部したのか」
初めて目を通すそれに思わず首を傾げてしまった。一冊だけでも充分に厚い名簿は綺麗に製本されている。
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