416 / 1096

第416話 波紋 2-3

「起きたのかっ」  慌てて振りほどくように手を離してしまった僕に、峰岸は少しだけ苦笑いして壁にもたれた身体を起こした。 「いま起きた。そしたら泣きそうな顔してる可愛いのがいたから」 「と、鳥羽がそろそろ戻れって」  弱りかけた自分のすべてを見透かされたような気がして、とっさに峰岸の言葉を遮り立ち上がると、僕は踵を返していた。急激に早くなった鼓動にさらに焦りが募る。 「待てよセンセ」 「……っ」  校内へ続く扉の手前で腕を強く後ろへ引かれた。それに肩を跳ね上げ振り向けば、ため息をつく峰岸が僕を見下ろしていた。 「俺に聞きたいことあったんじゃねぇの?」 「別に」 「見たんだろ、名簿」  核心を突く言葉にいやでも視線が勝手に泳いでしまう。それを誤魔化すように下を向けば、肯定したも同然であることに気づき肩が落ちた。そんな僕の腕を引き寄せる峰岸は、風にあおられた髪をかき上げながら、今日、何度目かわからないため息をついた。 「こんなんで大丈夫かよ。顔あわせて、ちゃんと知らない振りできんの……あいつの母親に」 「峰岸は、なにか知ってるのか」  その口ぶりは明らかになにかを確信しているようだった。でも無関心を装っていた藤堂の母親が、急にまたアクションを起こす意味が僕にはまったくわからない。

ともだちにシェアしよう!