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第419話 波紋 3-1

 ふらつく身体を抱きしめられて、再び奪われた唇は優しく啄まれる。しかしギシリとフェンスが軋み、それはまた深くなっていく。いまはもう峰岸の制服を掴み、もたれたフェンスに身体を預けて立っているのが精一杯な状態だ。  それでも藤堂とは違う性急なその行為に、身体は拒もうと無意識にあがくけれど、力の入らない状態ではそれも無意味だ。 「んっ……」  時折もれる自分の声に顔が熱くなった。けれどそのたび峰岸に追い詰められて、ますます身体の力が抜けていく。ふわふわとした思考がさらに現実を遠ざけていく。このままじゃ駄目だと心の中ではわかっているのに、身体が思うように動いてくれない。流されてしまいそうな状況に、焦りや不安が湧き上がってくる。  けれど――突然辺りにものすごい音が響き渡り、我に返るよりも先に身体が大きく跳ねた。 「……」  ふっとそれた峰岸の視線の先を追いかけて、僕は冷や水をかぶったように一瞬にして血の気が引いた。  響いた音の原因は、屋上と校舎をつなぐ金属製の扉が強く壁にぶつかったためだった。けれど扉にきつく拳を押し付けこちらを見据えるその姿に、僕の声が震えた。 「藤、堂?」  三日ぶりにやっと会えたというのに、こんなタイミングの悪さがあるだろうか。自分の意志の弱さを今更ながらに呪ってしまう。

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