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第420話 波紋 3-2
こちらを見る藤堂の目には明らかに怒りの色が浮かんでいる。その目を見れば、僕と峰岸の行為を間違いなく見られていたことがわかる。
「離せっ」
いますぐ傍へ行って謝りたいのに、峰岸の手は藤堂が現れてもその力を緩めてはくれない。それどころか抗う僕の身体をさらに抱きかかえた。
なにも言ってくれない藤堂と、まったく気持ちを読むことのできない峰岸のあいだに挟まれ、焦りと不安とで気が触れそうになる。
「待っ、藤堂っ」
けれど僕が一人慌てふためいているうちに、藤堂は微かに校内から聞こえてきた声に弾かれるよう、さっと身を翻してしまった。そして僕の声に振り返ることなくその姿が目の前から消える。
「あいつでほんとにいいのかよ」
ぽつりと呟かれた言葉と共に、どうやっても離してくれなかった峰岸の手があっさりと離れていった。支えるものがなくなった僕の身体は、自然と下へと落ちていく。座り込んだ地面にぽつぽつと小さな雫が落ちた。けれどいまはそれがなんなのかさえ考えるのも辛かった。
呆れられた? 嫌われた? そう考えるだけで胸が痛くて叫び出したい気分になる。
「会長、どうかなさったの? いますごい音がして」
近づいてきた小さな足音が扉の辺りでぴたりと止まる。それが誰のものかは気づいた。気づいたけれど、その声に人物に身勝手な怒りを覚えてしまった。
いま来なければ藤堂は――傍に来てくれたかもしれない。
「なんでもない、あっち見て来い」
そう言って僕の横をゆっくりと過ぎる峰岸は、扉からの視線を遮るように目の前に立った。
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