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第422話 波紋 3-4
「なんでそんなに想えんの? これから先だってこんなこと絶対続く」
「わかるかよっ、いちいちそんな理由なんか考えてない。ただ好きなんだ。僕は藤堂が好きで仕方がない」
幸せになりたい?
自分を選べと、あの時そう僕に言った峰岸の気持ちはいまなら理解できる。いつかこうなることがわかっていたんだ。でもどんなに悲しくて不安で泣きたくなっても、ほかの誰かと一緒にいても自分は幸せにはなれない。どんな恵まれた環境で愛されたとしても、それが藤堂でなければ意味なんかないんだ。
「お前だって好きならわかるだろ。なんでそんなこと聞くんだよ」
報われない想いをしていてもまだ好きでいる。想いが通じた僕と峰岸はまったく違うようでいて、でも結局は同じだ。
「……あんたが泣くのを見るのは好きじゃない」
「そんなの、お前のエゴだ。頼むから、僕から藤堂だけは奪わないでくれ」
「もう泣くなよ」
膝を折り僕を抱き寄せた峰岸の気持ちは、痛いくらいに優しくて純粋だ。以前、藤堂も僕も好きだと言った峰岸の言葉に偽りはなくて、その想いも本物だ。でも僕にはどうしてやることもできない。けれどそれを一番わかっているのも峰岸なのかもしれない。
だからあんなに怒ったんだ。藤堂のことをよく知っているから、僕が傷つくことも峰岸にはきっと手に取るようにわかる。僕たち二人のあいだで一番苦しい想いをしているのは、峰岸自身なのかもしれない。
あふれ出す涙が止まるまで、峰岸は僕の髪を優しく撫でていた。
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