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第423話 波紋 4-1

 もし俺が本気になったらどうする?  あの日そう言った峰岸にならないだろうと――俺は返した。けれどそれは間違った答えだった。あの時、峰岸が本当に求めていたのは俺のはっきりとした否定だった。  もちろん俺が抱いた確信の通り、峰岸は本気であの人を俺から引き離そうとは考えていなかったはずだ。ただ傾き始めていた気持ちを否定してほしくて、俺を試すようなことをわざと口にしたのだろう。 「なんであの時に気がつかなかったんだ」  あんな場面に遭遇してからやっと気がつくなんて、自分の愚かさに腹が立つ。いつもの俺ならば、間違いなくふざけるな許すはずがないと、峰岸の望む答えを返していたはずなのに。なぜあの時に限って答えを躊躇ってしまったんだろう。 「泣かせた、よな」  あの人の声に振り向かずにまた逃げ出してしまった。きっと傷ついて泣いているに違いない。そう思うのに何度も同じことを繰り返してしまう。傷つけたくなどないのに、泣かせたくはないのに――いつも後悔ばかりしている自分がいる。 「できるなら傍にいたい。ほかの誰かにあなたの隣を奪われるのはごめんだ」  けれど守りたいと思えば思うほど空回り、傷つけて彼を不安にさせていく。自分の無力さがたまらなく嫌になる。どうすればあの人をこれ以上、悲しませずに済むのだろう。  いまはただ傍にいてあげることさえ俺にはできない。俺が傍にいることで、あの人の大切なものや幸せ、笑顔もすべてを奪ってしまうかもしれない。

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