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第426話 波紋 4-4

 口喧嘩はよくしていたが、元々峰岸と性格の相性は悪くない。一緒にいて楽だった。でもそれはあの人の傍にいる安堵や癒やしとはまったく違う。 「会長はお父様みたいなものね」 「……父親?」 「経営者としての才覚や考えを尊敬できても、人として親としては落第点。小さな私を膝に乗せて、お前が男だったらよかったのになと、そう言った時はさすがにお母様も泣き崩れてましたわ」  鳥羽の父親は会社をいくつも経営するやり手の社長だと、話は聞いたことがある。仕事にのめり込むあまり家族をかえりみないというのは、よくある話だ。 「でも、私も人のことは言えませんけど」  どこか自嘲気味な笑みを浮かべた鳥羽は、少し遠くを見るように目を細めた。 「お父様の会社を継ぎたいと言ったら、私には普通の結婚をして幸せになって欲しいと、お母様が泣くんですもの」  普通の結婚。多分それは母親の夢なんだろう。自分で叶えられなかったものを娘にと想うそれは、愛情なのかエゴなのか。 「普通ってなんだろうな」  親の心など俺には到底理解できないものだ。そもそも俺に親という存在はいるのか? あれはただ単に血が繋がっているというだけの存在だ。 「……それは私にもわかりかねますわ。私は経営学を学んで早く社会に出て、経験値を増やすこと。そしてそれに突き進むのがなによりも幸せ。だからパートナーはそんな私を癒やしてくださる殿方が一番ですの」 「でも兄弟いないだろう、跡継ぎにはそれなりのものを求めるんじゃないのか」 「……」  直系が家を継ぐという固定観念は今時それほどないとしても、一人娘ならば相手に求められるものは大きいように思える。

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