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第427話 波紋 4-5
けれど鳥羽はそんな俺の問いかけにふっと呆れたように息をついた。
「一般的には殿方が家を継いで行くものかもしれませんけど、私はパートナーにそういったことは求めていませんわ。そもそも私が継げばいいこと、そんなことに大切な方を巻き込む必要もありませんから」
「頼もしいな」
実際にこの性格では大人しく旦那の帰りを家で待つ良妻には向かないだろうと思うが、相手に癒やしを求めているのであればそれはそれで成り立つ関係か。
「今日はやけにおしゃべりですわね。なにか悩みごとでもあるのかしら」
「悩み、か」
その言葉でふいによぎったざらりとした嫌な感覚に、胃がキリリと痛んだ。
「事と次第では聞いてさしあげるわよ」
「……事と次第?」
「あの方が泣かずに済むことでしたらね」
そう言って笑った鳥羽の目がすっと細められた。その表情に俺は無意識のうちに身構えていた。
「まったく、いきなり会長と二人で横から現れたと思えば、あなたにいたってはあっさりと攫って行ってしまうんですもの。長年の乙女心をどうしてくださるの? このままでは恨みますわよ」
「なにを」
「はぐらかそうとしても無駄ですわ。ほかの誰の目を騙せても私を騙せるとは思わないで」
とっさに後ろへ下がろうとした俺に、鳥羽は掴んでいた左手を傷口に触れるようわざと握りしめた。
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