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第431話 波紋 5-3

 床の紙を踏まぬように傍へ行きそれを受け取ると、よろしくお願いしますと言って、すぐさま鳥羽は部屋を出て行ってしまった。  あまりにもあっけないやり取りに少し違和感を覚えたが、僕はそれ以上は特に気にもせず、上着の内ポケットにしまっていた元の行動表と新しい行動表を見比べた。 「……なぁ、藤堂。本当にここまでしなければならないことなのか」  明らかに意図があっての配置換えと思わざる得ないそれは、藤堂と数人の実行委員の変更だった。基本的に僕自身は生徒会役員と一緒に行動することが多いが、藤堂の配置はすべて僕のいる場所から外されていた。 「なにがあったんだよ」  胸の内から湧き上がってきた感情に喉が熱くなった。にじみ出たものがこぼれ落ちないように強く目をつむるが、一粒だけぽつりと手にした紙を濡らした。  せめてなにがあったのかだけでもわかればいいのにと思う。けれどここまで藤堂が徹底していることを考えれば、知ったところで僕が藤堂にしてあげられることはないのかもしれない。 「でも、お前の重荷になるのだけは嫌なんだ。僕のせいでまたすべて諦めてしまうことになるのだけは嫌だ」  初めて出会った時も再会した時も、藤堂はなにもかも諦めたような、そんな暗い目をしていた。でもいまはやっと自分のやりたいことを見つけて前を向いて歩き出せた、これからなんだと思っていた。それなのにまたあの頃に戻ってしまうようなことになったら、しかもその原因が自分なのだとしたら、僕は一生自分を許すことができない。 「僕は、どうすればいい?」  ずっと傍にいて欲しいなんて言わない。ただなにも見えないことが不安なんだ。

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