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第432話 波紋 5-4

 でも多分きっと、連絡さえもできない状況なんだろう。走り去ってしまった藤堂に、一言でも謝りたくて何度もメールをした。でもいくら待っても返事はなく、意を決して電話もしてみた。けれど電源が入っていなくそれは繋がらなかった。もしかしたら三日前からメールすら見ていないのかもしれない。 「僕のことで悩んでいたりしてないだろうか。もしかしてバレたとか? いや、それなら僕に対してなにかあるはずだし」  けれど安易に連絡を取れない状況なのはきっと間違いない。いまは気を抜かずにいなければ、僕からボロが出ることだけは絶対に避けたい。藤堂が一生懸命に守ろうとしてくれているのがわかるから、それを無駄にはしたくない。 「……?」  きつく握り締めグシャリと音を立てたその手元に、違和感を覚えて僕はふと視線を落とした。  鳥羽から渡された新しい行動表の厚みが、少しだけ元の行動表よりも厚いのだ。よくよく見れば、一番下に重ねられたものが二重になっているのに気がついた。 「なんだこれ」  糊付けを失敗でもしたのだろうかと、わけもわからずそれを破れぬようゆっくりと剥がせば、隙間からひらりと小さな紙が出てきた。ひらひらと舞い落ちるその紙を慌てて拾い上げた僕は、思わずその場に立ち尽くしてしまった。  そこに書かれた綺麗な文字には見覚えがあった。几帳面でまっすぐとした性格が文字にも現れている。  それは、藤堂の字だ。 「どうして、お前は」  こんなにも見計らったように僕をすくい上げてしまうのだろう。たったそれだけでもなぜか愛しい気持ちになる。それを指先でなぞれば視界がぼやけて文字がにじんで見えた。  それでもその言葉だけはしっかりと胸におさまった。 「信じるから、ちゃんとお前のこと信じてる」  こんな時まで優しい藤堂の想い。堪えていたものが、あっという間に溢れ出した。

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