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第436話 波紋 6-4
ほかになんの用があるのかと思わずまじまじと見返してしまった。
「あのさ、俺はちょっと人より細かいこと気にしやすいんだけど。ほかの人にはそうそうわかんないと思うんだよね。だから大丈夫だよ」
「え?」
「俺は絶対、誰にも言わないから」
一瞬なにを言っているのか理解できなかったけれど、まっすぐな神楽坂の目を見て気がついた。僕の不安を感じ取ったんだ。
「……ああ、ありがとう」
「それ言いたかっただけ」
どこかほっとした僕に神楽坂はニィっと口角を上げて笑い、くるりと身を翻し走り去っていった。
「倖ちゃーんっ、なにやってんの? サボリなしだからね」
「うるさい、さぼってないしっ」
バタバタと神楽坂が階段を駆け下りる音と、階下から呼ぶ野上の声が廊下に響いた。
なんだかその声や些細な日常が眩しく思えた。彼らはなに気ない毎日の中でいつもまっすぐで、そんな姿を見ると時折はっとさせられる。自分が随分と昔に置き忘れてきたひたむきさと純粋さがそこにはある。
「なぁ藤堂、僕もこれからもっと頑張るよ。自分に負けたりしない。僕は大丈夫だから、無理だけはするな」
小さく折りたたんだ紙を祈るよう握りしめて、僕は窓から望む青空を見上げた。
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