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第438話 波紋 7-2
「あんたの幸せと俺の幸せは別物だ」
ソファの背に身体を預け、さも当然だと言わんばかりの顔で煙草を吹かすその態度は、腹の奥に溜まった苛々を募らせた。これが自分の母親なのだと思うだけで、現実というものが嫌になる。
「自分の旦那が使えないから、今度はその兄貴をたらし込んだのかよ」
「いやね、随分と面白くない冗談だわ」
「冗談でも笑えない」
肩をすくませ笑うこの女は、見た目だけなら歳よりもずっと若く見える。ましてや俺のような歳の子がいる雰囲気など微塵もなく、他人から見れば目を惹くそれなりの容姿だ。
前妻を亡くしてからずっと独り身の川端に取り入り、手玉に取るくらいは朝飯前だろう。
「あなたは私の息子でしょう。私はあなたの保護者なの。子供の未来を憂いてなにが悪いの」
「心配してるのは俺じゃなくて、金だろ。あんたはどうやって簡単に金が手に入るかしか考えてない」
憂うどころか、見向きもして来なかったのに白々しいにもほどがある。元々母親や妻などという役割をするつもりもなければ、この先もその気すら端からない。昔から変わらず自分の保身がなによりも第一であるこの女は、金と地位に対する執着だけは人一倍だ。
「俺は川端の養子になんてならない」
この先、自分の一生を食いものにされるのはごめんだ。
「優哉、我がまま言うんじゃないわよ。あなたがこうしてなに不自由なく、自分の好きなように暮らせてるのは誰のおかげ?」
「……」
「役立たずな父親の代わりにあなたの学校や生活、この家も私が与えているのよ。それくらいわかるでしょう」
「それはあんたが悪いんだろう。あの人が家を出て帰らなくなったのは、あの人のせいでもなければ、俺のせいでもない」
呆れた目を向けられ、思わず鼻先で笑ってしまった。
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