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第441話 波紋 7-5

 訝しげに顔をしかめた俺に、それを拾い上げてこちらへ放り投げてきた。バサリと音を立てて紙の束は足元に落ちる。  視線を落とした紙に記載されているのは俺の銀行明細だ。 「あら、怖い顔。でも私は、このくらいのことは簡単にできてしまうのよ」 「……」 「まあ、お付き合いしてる子については、高校最後の思い出だからしばらく放っておいてあげる。せいぜい楽しんだらいいわ。私があなたに費やした十八年……いえ、二十年分をこれから返してもらわなきゃいけないんですもの。これだけじゃ足りないわよ」  細めた目に愉悦の色が浮かんでいるのがわかる。手のひらで踊る俺を見るのが楽しいのだろう。それと共にどうしようもないほどの殺意が脳裏をよぎる。けれど深く息を吐き出してゆっくりと瞬きをすると、それを腹の奥に押しとどめた。言葉を交わすたびにこうして奥底に澱んだ気持ちが溜まっていく。 「俺はあんたの道具じゃない」 「電話帳にも登録してないなんて、あなたにしては珍しく警戒してるんでしょう?」 「……っ」 「あなた寝入ると本当に起きないから助かるわ」  動揺した俺の様子を楽しげに見ながら、写真に紛れた紙をまたこちらへと投げて寄越す。ひらりと宙に舞ったそれが床に落ちるまでの数秒、心臓が張り裂けそうなほど早鐘を打った。

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