442 / 1096

第442話 波紋 8-1

 微かに震える指先で紙を拾い上げ、息が止まりそうになる。そこには俺の携帯電話に登録してあるアドレスや電話番号。そして発着信履歴やメールの送受信履歴がずらりと並んでいた。  その中には彼のメールアドレスや電話番号も記載されていた。元々メールも少ない彼だから、短い文章だけでは誰なのか判別はつかないが、明らかに目星をつけて彼とのやり取りだけが抜き出されている。もしものことを思えばぞっとする。 「わかった? 私がいつでも行動を起こせること、忘れないでおくといいわ」  このままでは遅かれ早かれ彼の存在を知られることになる。でもそれだけは絶対に避けなければ、公になった途端に彼の立場が危うくなってしまう。 「思い出づくりは卒業までよ。そのあとは私がちゃんといい娘を見繕ってあげるわ。本気だって言うなら早めに別れておくことね」 「……」  いまの俺にできることはあるだろうか。あの人を守るために俺はどれを選択すればいい?  考えるたびに不安ばかりが押し寄せる。どうすれば、彼を守れるだろう。彼を手放さずにいるために、俺はなにを手放せばいい?  重苦しい感情で息が詰まりそうになった。目の前が真っ暗になって、身動きが取れなくなりそうだ。  俺はあの人の隣にいつまで立っていられるんだろう。そうを思うだけで怖くて、どうしようもなくなる。俺はあの人の傍でなければ、息もできない。 「……っ」  急に息が詰まり、身体が揺れる感覚がした。そしてそれに気づいたのと同時か、ふっと身体が重たく感じた。

ともだちにシェアしよう!